2016-01-01から1年間の記事一覧

立原正秋「剣ヶ崎」の一族の愛の悲劇

暗い主題を扱いながら清澄な文体に導かれたこの小説は、民族問題を抜きにしては語れないが、それと同時に、これは「血を分けた」者たちの愛と憎しみの物語である。物語の主要な展開において、「他人」というものがほとんど現れず、登場人物がすべてといって…

ルドゥーテの薔薇の豆本

◉1day lessonのお知らせ ◉ 開いていくと、次々と薔薇の絵があらわれる小さな本。最後の斜めの折り込みには、シェイクスピアの薔薇の詩が隠されていますが、薔薇の詩人ロンサールの詩に変わるかもしれません。原本は「花時間」2009年5月号の巻頭を飾ったリボ…

馬柄のネクタイから作った小さな本と活字デザインのノオト

馬柄の絹のネクタイから作ったリボン結びの本は 、2003年のNHK『おしゃれ工房 』4月号のために制作した。幅広の部分を使った布がバイアスなので,なかなか扱いにくかった。本文は馬の切手貼り。『Les CHEVAUX』 のタイトルラベルの形は、馬蹄形を模したもの…

至福の仕掛け絵本――2冊の『シンデレラ』

子どもの頃、初めて買ってもらった仕掛け絵本は「光文社の動く絵本」の『シンデレラひめ』(絵=岩本康之亮)だった。その時代は、十見開きのうち、ハイライトの一開きだけが仕掛けになっていた。シンデレラの場合は、もちろんカボチャが馬車になり、二十日鼠…

『ペレアスとメリザンド』とフォーレのシシリエンヌ(シチリアーノ)

『ペレアスとメリザンド』(Pelléas et Mélisande)は、『青い鳥』を書いたベルギーの劇作家モーリス・メーテルリンクの禁断の愛の戯曲である。 日暮れの森の中で、長い髪の若く美しい女性が泣いている。通りかかったアルモンド王国の王太子ゴローは、メリザ…

アナトール・フランスの童話『アベイユ姫 』

アナトール・フランスの童話『アベイユ姫 』 ジョルジュ・ド・ブランシュランドは、生まれてすぐに父の伯爵を、三歳の時に母を失う。伯爵夫人は、ジョルジュの行末を案じて、親友のクラリード公爵夫人に、ジョルジュの養育を託して天に召される。その日から…

ジャック・プレヴェール脚本『やぶにらみの暴君』

ジャック・プレヴェール脚本『やぶにらみの暴君』 1952年に邦題『やぶにらみの暴君』としてアニメーション公開。原作はハンス・クリスチャン・アンデルセンの「羊飼い娘と煙突掃除人」。監督のポール・グリモーは、1967年に『王と鳥』として改作。この映画に…

オートマタの悦楽とセーラ・クルーの「最後の人形

オートマタの悦楽とセーラ・クルーの「最後の人形」 オートマタ(Automata ギリシャ語の「一人で勝手に動くもの」が語源)は、主に18世紀から19世紀にかけてヨーロッパで作られた機械人形ないしは自動人形のこと。ゼンマイを巻いて動くからくり人形。 動かな…

ルー・サロメ 善悪の彼岸

◉ルー・サロメ 善悪の彼岸◉ ――ニーチェ・リルケ・フロイトを生きた女 ルー・サロメの本名は、ルイーズ・フォン・サロメ。ロシア皇帝に仕えるグスタフ・フォン・サロメ将軍の第六子として、1861年にサンクトペテルブルグで生まれた。幼い頃から利発聡明で、そ…

[本の会]355回例会のお知らせ

[本の会]355回例会のお知らせ 装幀を仕事とし、詩人や作家、画家との交流や読書の記憶から生まれた小さな本。このたび『本の夢小さな夢の本』(芸術新聞社)を上梓された田中淑恵さんに、本をめぐる楽しいエピソードとサプライズに満ちた話を語っていただ…

若松賤子とセドリックの怜朗*

世界各国のさまざまな本を、私たちがいつでも自由に読むことが出来るのは、ひとえに多くの翻訳家のおかげであるといっていい。あらゆる分野で翻訳書が出版されている中で、女性翻訳家の占める割合は、近年確実に高くなっているように思われる。 若松賤子(し…