戦歿学徒宅島徳光の『くちなしの花』と旺文社文庫、渡哲也の「くちなしの花」

宅島徳光(のりみつ)は、大正10年福岡市博多区生まれ。奈良屋小学校、県立福岡中学、慶応義塾大学法学部、昭和18年学徒出陣により海軍予備学生(第十三期飛行予備学生)として三重海軍航空隊に入る。出水、宮崎の各航空隊を経て昭和19年5月海軍少尉に任官。8…

第二詩集『若三日月は耳朶のほころび』

ようやく三年越しの懸案だった、文庫サイズ、第二詩集にして最後の詩集『若三日月は耳朶のほころび』が出来上がりました。カバーと表紙に艶金箔押。第一詩集『ミモザの薬』からのご縁で、帯文をミナ ペルホネンの皆川明さんにいただきました。上製角背80頁。…

薔薇のエンボスの押された豆本『ロンサール詩集』

●日本橋三越カルチャーサロンで、2018年6月24日(日)に講習予定の『ロンサール詩集』の書影です。11:00〜16:00(昼食含む)本の大きさは、縦8.5×横6.5mm。 講習費:10800円(材料費込)[お問い合わせ・お申込み ]03-3274-8595 ●真珠光沢の紙に薔薇のエン…

佐藤春夫の小説『西班牙犬(スペインいぬ)の家』

2018年の戌年の賀状を、今頃アップします。 佐藤春夫の小説『西班牙犬の家』は、大正6年初出。(夢見心地になることの好きな人々の為めの短篇)というサブタイトルが付いている。ジャック・カゾットの「悪魔の恋」をモチーフにしたという不思議な作品。 主人…

[ガラスケースのなかの小さな本]〜装丁家・田中淑恵のアートブック

●装丁家・田中淑恵の、初期から現在までの手製のミニチュアブックからセレクトした作品を展示いたします。会期中旬に、一部展示替えがあります。会期●2017年6月7日(水)〜7月5日(水) 場所●JR中野駅南口徒歩5分 なかのゼロホール西館1F 事務所前のガラスケー…

17歳で自死、井亀あおい『アルゴノオト』『もと居た所』

はらりと旧い紙片が膝に落ちた。ーー井亀あおい『アルゴノオト』ーー 読んでみたい本の覚書である。これを書いた頃はネット検索などなかったので、手に入れられぬまま、20年近く紙片を取っておいたのだろう。早速検索して本を取り寄せると、これは1977年に17…

2017年酉年の年賀状『WORPSWEDE』

2017年酉年の年賀状。今年は新作が作れず、旧作の天地左右に開く四季の写真集『WORPSWEDE』を、外函とともに青磁色の鳥のお皿に載せてみる。北ドイツの高原の村ヴォルプスヴェーデには、20世紀初頭、画家ハイリッヒ・フォーゲラー、オットー・モーターゾーン…

立原正秋「剣ヶ崎」の一族の愛の悲劇

暗い主題を扱いながら清澄な文体に導かれたこの小説は、民族問題を抜きにしては語れないが、それと同時に、これは「血を分けた」者たちの愛と憎しみの物語である。物語の主要な展開において、「他人」というものがほとんど現れず、登場人物がすべてといって…

ルドゥーテの薔薇の豆本

◉1day lessonのお知らせ ◉ 開いていくと、次々と薔薇の絵があらわれる小さな本。最後の斜めの折り込みには、シェイクスピアの薔薇の詩が隠されていますが、薔薇の詩人ロンサールの詩に変わるかもしれません。原本は「花時間」2009年5月号の巻頭を飾ったリボ…

馬柄のネクタイから作った小さな本と活字デザインのノオト

馬柄の絹のネクタイから作ったリボン結びの本は 、2003年のNHK『おしゃれ工房 』4月号のために制作した。幅広の部分を使った布がバイアスなので,なかなか扱いにくかった。本文は馬の切手貼り。『Les CHEVAUX』 のタイトルラベルの形は、馬蹄形を模したもの…

至福の仕掛け絵本――2冊の『シンデレラ』

子どもの頃、初めて買ってもらった仕掛け絵本は「光文社の動く絵本」の『シンデレラひめ』(絵=岩本康之亮)だった。その時代は、十見開きのうち、ハイライトの一開きだけが仕掛けになっていた。シンデレラの場合は、もちろんカボチャが馬車になり、二十日鼠…

『ペレアスとメリザンド』とフォーレのシシリエンヌ(シチリアーノ)

『ペレアスとメリザンド』(Pelléas et Mélisande)は、『青い鳥』を書いたベルギーの劇作家モーリス・メーテルリンクの禁断の愛の戯曲である。 日暮れの森の中で、長い髪の若く美しい女性が泣いている。通りかかったアルモンド王国の王太子ゴローは、メリザ…

アナトール・フランスの童話『アベイユ姫 』

アナトール・フランスの童話『アベイユ姫 』 ジョルジュ・ド・ブランシュランドは、生まれてすぐに父の伯爵を、三歳の時に母を失う。伯爵夫人は、ジョルジュの行末を案じて、親友のクラリード公爵夫人に、ジョルジュの養育を託して天に召される。その日から…

ジャック・プレヴェール脚本『やぶにらみの暴君』

ジャック・プレヴェール脚本『やぶにらみの暴君』 1952年に邦題『やぶにらみの暴君』としてアニメーション公開。原作はハンス・クリスチャン・アンデルセンの「羊飼い娘と煙突掃除人」。監督のポール・グリモーは、1967年に『王と鳥』として改作。この映画に…

オートマタの悦楽とセーラ・クルーの「最後の人形

オートマタの悦楽とセーラ・クルーの「最後の人形」 オートマタ(Automata ギリシャ語の「一人で勝手に動くもの」が語源)は、主に18世紀から19世紀にかけてヨーロッパで作られた機械人形ないしは自動人形のこと。ゼンマイを巻いて動くからくり人形。 動かな…

ルー・サロメ 善悪の彼岸

◉ルー・サロメ 善悪の彼岸◉ ――ニーチェ・リルケ・フロイトを生きた女 ルー・サロメの本名は、ルイーズ・フォン・サロメ。ロシア皇帝に仕えるグスタフ・フォン・サロメ将軍の第六子として、1861年にサンクトペテルブルグで生まれた。幼い頃から利発聡明で、そ…

[本の会]355回例会のお知らせ

[本の会]355回例会のお知らせ 装幀を仕事とし、詩人や作家、画家との交流や読書の記憶から生まれた小さな本。このたび『本の夢小さな夢の本』(芸術新聞社)を上梓された田中淑恵さんに、本をめぐる楽しいエピソードとサプライズに満ちた話を語っていただ…

若松賤子とセドリックの怜朗*

世界各国のさまざまな本を、私たちがいつでも自由に読むことが出来るのは、ひとえに多くの翻訳家のおかげであるといっていい。あらゆる分野で翻訳書が出版されている中で、女性翻訳家の占める割合は、近年確実に高くなっているように思われる。 若松賤子(し…

プーシキン「バフチサライの泉」とザレマの愛の情熱

プーシキン「バフチサライの泉」とザレマの愛の情熱 かの泉、われと同じく 訪れし人あまたありしが、 今ははや世を去りしものあり、 はるか遠くさまようものあり。 サディ クリミア・ハン国は、ジンギス・ハーンの後裔と言われるハージー1世ギレイによって15…

大岡昇平『武蔵野夫人』と内田吐夢『限りなき前進』

[ 学生時代、恋ケ窪、鷹の台、と国分寺からふたつめの駅で降り、玉川上水沿いの道を歩いて大学へ通った。大岡昇平の『武蔵野夫人』は、その恋ケ窪が舞台だが、かつて一度たりともそこで降りようとしたことはなかった。溝口健二監督の映画『武蔵野夫人』をあ…

大正・乙女デザイン研究所9月例会のお知らせ

[大正・乙女デザイン研究所 第44回月例会] 日時:9月26日(土) 18:00〜 会場:中央区立産業会館4階 『第4集会室』 東京都中央区東日本橋2−22−4 http://www.chuo-sangyo.jp/access/access.html 内容:芸術新聞社刊『本の夢 小さな夢の本』出版記念+懇親会 小…

挿絵画家 松野一夫の多彩な世界

かつてあったのに今はなく、自分で作ってしまいたいと思う本のひとつに、少女雑誌がある。少女といっても子どもではなく、若い女性という方が近い。もっと広い意味では、”少女の感性”を持ち続けているひとのための雑誌である。 上質の教養と娯楽とロマンがあ…

6月25日刊行『本の夢 小さな夢の本』

この本は、少女時代に作っていた「夢の莟ノオト」が開花したものです。 はじめに詩と古典のことばが降りてきて、そこから物語がうまれ、大好きな本の形を借りて、宝石のような小さな本が誕生しました。 仕事として多くの装丁に関わり、商品としての本作りを…

信濃追分と福永武彦夫妻のこと

紫のぼかしに短冊を散らし、物憂い横顔の婦人を配した七夕の絵葉書。裏をかえすと、旧字旧仮名の見馴れぬ文字が綴られている。差出人の名前を見て私は驚いた。それが福永武彦先生にはじめて戴いた夢二の絵葉書だった。そのとき、先生の余命があと四年などと…

本の装い、商品としての本

*本の装い、商品としての本 これまでに何冊の本を装丁したか、記録もなく、すべてを所蔵してもいないので、書名を覚えていない初期の本はどれだけあるか分らなくなっている。 最初にきちんと印刷して造本をしたのが、学生時代の友人の詩集『海の色』だった…

個人誌「邯鄲夢」と久世光彦さんのこと 

箱のなかに箱があり、それを開けるとまた箱がある。開けても開けても箱があり、少々不安になった頃、ようやく小さな本が顔を出す。このマトリョーシカのような重ね箱のイメージは、絵のなかの絵、そのなかの絵、と限りなく小さくなってゆきながら果てしなく…

日本女子大「詩と童話まつり」と諏訪優さんのこと

目白の東京カテドラル聖マリア大聖堂の近くの日本女子大学のキャンパスで、「詩と童話まつり」が開かれていた時期がある。日本女子大学に児童文学究室があった頃で、「目白児童文学」の姉妹誌として、同人誌「海賊」が発行されていた。アドバイザーに山室静…

カイ・ニールセンと小林かいちの「様式としての嘆き」

中原中也の恋人だった長谷川泰子の口述をまとめた本を文庫化することになり、その装丁を依頼されたのは、2006年1月のことである。カバーには、小林かいちの版画を使う予定だという。それまで私が見たかいちと言えば、二度の「絵はがき展」の展示作品と古書市…

荒巻義雄『時の葦舟』と在りて無き世、または入れ子の夢

天井も壁も床も鏡で作られた万華鏡のような部屋に入ったとき、果てしなく続く鏡像はすべてが虚像なのだろうか。もしや自分自身がすでに虚像であり、この世界そのものが、だれかの夢のあるのではないか、と思わせる物語が、荒巻義雄の『時の葦舟』である。 物…

「舞踏会の手帖」と扇ことば

ジュリアン・デュヴィヴィエ監督のフランス映画「舞踏会の手帖」(1937年)に、主人公クリスティーヌ(マリー・ベル)が36歳の若さで未亡人となり、湖畔の古城の暖炉の前で、夫の遺品を整理していたとき、するりと鉛筆の付いた小さな手帖が床に落ちる場面が…