2012-01-01から1年間の記事一覧

『うたかたの日々』とイグアナの胸膜を開けばサルトル

映画の中の本と言えば、『華氏451度』や『プロスペローの本』、『薔薇の名前』などが思い浮かぶが、もっと爽やかで若々しく、そしてスクリーンの中の本そのものに思わず触れたくなってしまうのが、ボリス・ヴィアン原作、シャルル・ベルモン監督のフランス映…

広津里香『死が美しいなんてだれが言った』と『蝶の町』

1977年1月、朝日新聞3面の記事下5段抜きのカッパブックスの広告が眼にとびこんできた。その大半は『死が美しいなんてだれが言った』という本に費やされていた。[思索する女子学生の遺書]とサブタイトルがついている。著者は29歳で夭折した広津里香(本名…

フォアレディースと寺山修司さんのこと

新書館の「フォアレディースシリーズ」に、寺山修司さんが選者だった「あなたの詩集」という、投稿少女たちの作品をアンソロジーにした本があった。私の詩が最初に載ったのは、第11集『鉛筆のシンデレラ』。「魚のヴァリエイション」という、寺山さん好みの…

三島由紀夫から佐々悌子への手紙

三島が市谷自衛隊駐屯地で自決してから四年後の1974年(昭和49年)から75年にかけて、「週間朝日」に連載された「三島由紀夫の手紙」というひとつの手記がある。元参議院議員紀平悌子さんの若き日の回想録である。この連載は、三島からの手紙というばかりでな…

デュ・モーリア『フランス人の入江』と絵を描く海賊

宝石のような数日間を、生涯に持つことのできる人は幸福である。ダフネ・デュ・モーリアの『フランス人の入江』は、一生にもうふたたびあろうとは思われぬ、そのめくるめく数日間の恋の物語である。 この本は、創元社の大ロマン全集のなかでは『情炎の海』(…

「まくろふぁ・りんくす」と紫陽花の小部屋

紫陽花が通用口の扉の前に咲き乱れている本の小部屋。図書館の奥のその部屋に、放課後集まっているのは、中学生の少女たちだ。東京杉並区の南のはずれ。そこにある公立中学の図書館は、図書室ではなく、独立した建物だった。その小部屋はPTA 用に使われてい…

モノクロ写真と言葉のラチチュード 

モノクロ写真はラチチュード(濃淡の幅)をひろく! と、学生時代の写真の授業で繰り返し言われた。ハイライト(印画紙の白)とシャドー(黒の最も濃い部分)の間に、いかに明度の違う豊富なグレートーンを表現するか、に腐心していた。コダックのプラスエッ…

夢見月、万朶の花のまぼろしは…

夢見月は陰暦三月の異称である。夢見月を迎えると、そっと思い出す情景がある。 大学に入ったばかりの頃、背後から私の肩をつついて、振り向いた手にシュークリームをのせてくれた、クラスメートの男の子。文化人類学や文学や図学製図など、選択科目が一緒で…

豆本『薔薇園のドラゴン』と『キレイちゃんとけだもの』

新宿東口のルミネエストが二代前の名称だった頃、六階の山下書店で平積みになっていた「子どもの館」創刊号(福音館書店刊)を眼にした時の鮮烈な印象は、今も昨日のことのように思い出すことができる。表紙の『太陽の東 月の西』のカイ・ニールセンの絵に負…