至福の仕掛け絵本――2冊の『シンデレラ』
子どもの頃、初めて買ってもらった仕掛け絵本は「光文社の動く絵本」の『シンデレラひめ』(絵=岩本康之亮)だった。その時代は、十見開きのうち、ハイライトの一開きだけが仕掛けになっていた。シンデレラの場合は、もちろんカボチャが馬車になり、二十日鼠が馬に、ドブネズミが馭者になる場面。黄金の馬車と馬は赤い紐でつながれ、馬車のなかには、ほとんど幼女の顔をしたシンデレラが乗っている。この本の存在がどれほど嬉しかったことか。大人になって仕掛け絵本を集める原点になったのだと思う。
神田小川町にオフィスがあった頃、図録や洋書や画集を扱っている源喜堂書店の裏のビルに居たために、ランチに出る時には必ずその店を通った。店の前に絵本の入った箱があり、毎日見ていたので、仕掛け絵本がでると、迷うことなく買い占めていた。今では高価なチェコの横開き絵本など、当時は驚くほど安価で、何冊も買えたのである。
もう一冊の『サンドリヨン(CENDRILLON) 』(ローランド・ピム1947年頃)は、アンティーク市に通うようになってからクレジットで購めた、かなり高価な絵本だった。 A PEEPSHOW BOOK は『覗き見ブック』というのよ、と店のオーナーが教えてくれた。場面が型抜きの四層に作られていて遠近があり、手前下に文章が書かれ、舞台のような構成になっている。紐をとじると六画面が星形に360度に開く。他にも『眠れる森の美女』や『長靴をはいた猫』などがあるらしい。
仕掛けのパターンにはいくつかの基本形があり、簡単なものはグリーティングカードなどにも使われている。一度仕掛けの愉しみを知ってしまうと、開いて立上がらないカードは、どこか物足りなく思えてしまう。