2014-01-01から1年間の記事一覧

落し文(オトシブミ)と花筏(ハナイカダ)

初夏の栗の木の下などに落ちている、葉に包まれた2センチほどの箱寿司のようなもの。細長い栗の葉を縦に中表にして、くるくると巻いて、最後に表の緑を見せて巻き止めてある。そのなかに入っているのは、2ミリ位の宝石のようなオレンジ色の卵。卵が孵ると…

李陸史『青ぶどう』と尹東柱『星うたう詩人』

韓国の詩人李陸史(イユクサ)の『青ぶどう』(伊吹郷訳/筑摩書房1990年)からいくつかの詩篇を拾ってみる。 青ぶどう わが里村の七月(ふみづき)は 青ぶどうの色づく季節 この里の伝説がたわたわ実り 遠くの空が夢見ようと粒つぶに溶けこみ 空の下まっさ…

『メランコリイの妙薬』と『ノスタルジアの妙薬』

レイ・ブラッドベリの短編集『10月はたそがれの国』を読んだのは、中学生の時。赤毛の魔女と大きなトカゲが妖しい建物の前を歩いている表紙の絵に、ひどく興味をそそられたからだ。初めて買った文庫本だったかもしれない。今でも覚えているのは、この中でも…

ジャック・プレヴェール『鳥の肖像を描くために』

ジャック・プレヴェール ( Jacques Prévert 1900-1977)は、詩人としてだけでなく、童話、シナリオ、シャンソンの歌詞と幅広く活躍した。シャンソンの「枯葉」、映画のシナリオではジャン・ギャバン、ミシェル・モルガン主演の「霧の波止場」(1938)「悪魔が…

散逸物語うたのしるべ

『散逸物語の研究––平安鎌倉時代編』小木喬著、笠間書院刊。定価9500円。厚さ6cmの函入りの大冊。神田小川町にオフィスのあった頃、神保町の西秋書店で購めた。まだ売れていない、今日もまだ、と毎日確かめながら、ようやく手に入れた時は、どんなに嬉しかっ…

本郷三丁目と「カミーユとマドレーヌの愛の物語」

本郷も「かねやす」までは江戸のうち、というその「かねやす」の数軒となり、本郷三丁目の駅の近くに洋品店「カミーユとマドレーヌ」がある。 十数年前、仕事帰りに間口の狭いその店に入ってみようと思ったのは、「カミーユとマドレーヌ」が、 フランスのセ…

現代豆本館と三井葉子の『夢刺し』

*現代豆本館と三井葉子の『夢刺し』 大学生の時、『私の稀覯本〈 豆本とその周辺 〉 』(丸ノ内出版)という、当時としてはかなり高価ではあったものの、手にしたからには買わずにはいられない本と出会った。カバーには、西洋の重厚な豆本棚に、革装箔押を…

ロマン・ロラン『花の復活祭』と『獅子座の流星群』

春の芽吹きを感じる3月になると、ロマン・ロランの戯曲『花の復活祭』を思い出す。そして、日暮れの早い11月になると、『獅子座の流星群』に思いを馳せる。それぞれは、ロランがフランス革命に題材を採った一連の戯曲のプロローグ(序曲)とエピローグ(終曲…

ロシアのマッチラベルの豆本『ЯРЛЫК СПИЧКИ』

【一日講習のお知らせ】 昨年から延期になっていた吉祥寺産経学園の「マッチ函に入ったロシアのマッチラベルの本」の講習をいたします。 マンドリンやアコーディオンを弾くルパシカの青年、ケーキをかかげたりスケートをしている少女など、ロシアのマッチラ…

大きな数と小さな数

大きな数といっても、「兆」以上になじみのなかった国民が、その10000倍の単位、京をはっきりと認識したのが、福島第一原発の放射能洩れ事故だった。 京(テラ)ベクレル、といわれてもどれほどの多量さなのか、まるで見当がつかない。しかし、何のためにだ…

津村信夫「荒地野菊」と恢復(コンパレツサンス) の力

――嘗てはミルキイ・ウヱイと呼ばれし少女に―― 指呼すれば、国境はひとすぢの白い流れ。 高原を走る夏期電車の窓で、 貴女は小さな扇を開いた。 津村信夫の詩は「ミルキイ・ウヱイ」とひそかに呼んだ少女、内池省子との出会いと訣れからはじまる。昭和六年、…

個展終了と馬のアドレスブック

2013年11月25(月)〜30 日 (土)の神保町檜画廊での個展が無事終了しました。2ヶ月に亘る入院のあとでもあり、不安でいっぱいでした。この20数年、差し上げる以外は決して売ることのなかった本たちを、知人や元学芸員の方々のお力添えで飾る…