ロマン・ロラン『花の復活祭』と『獅子座の流星群』
春の芽吹きを感じる3月になると、ロマン・ロランの戯曲『花の復活祭』を思い出す。そして、日暮れの早い11月になると、『獅子座の流星群』に思いを馳せる。それぞれは、ロランがフランス革命に題材を採った一連の戯曲のプロローグ(序曲)とエピローグ(終曲)に位置している。
『花の復活祭』――時は1774年の枝の日曜日の前日。大公クルトネの城館の見晴し台。露台で逢引きしているのは、大公と元帥夫人との庶子ド・ツリー士爵と庭造りの娘ユシェット。士爵の義理の兄である伯爵は、自由主義者と親交のある父大公とも対立していて、義弟のこともこころよく思っていない。弁護士のマティユ・ルニョーは、幼なじみのユシェットに恋しているが、ユシェットはド・ツリー士爵に夢中である。
そこへ、大公がすべての相続権を士爵に譲ったとの報が入る。士爵の身に危険が迫っているのをルニョーは感じとるが、すでにランプを持った、士爵に恨みを持つゲランと共に森に出て行ってしまったあとだった。森から銃声が聞こえ、ユシェットは失神する。
1789年に民衆決起のフランス革命が起こり、バスティーユ牢獄襲撃 、ルイ16世やマリー・アントワネットらの処刑、王政の廃止 、そして国民による共和制が成立する。
フランス革命暦は、詩人ファーブル・デグランティーヌによって文学的な月名が考案された。春は-al, 夏は-idor, 秋は-aire, 冬は-ôse, と、3ヶ月ごとに脚韻を踏んでいる。 しかし1ヶ月を30日とするこの暦は不評だったようで、わずか12年で廃止され、元のグレゴリオ暦に戻った。
[春] Germinal ジェルミナル(芽月)
[春] Floréal フロレアル(花月)
[春] Prairial プレリアル(牧草月)
[夏] Messidor メスィドール(収穫月)
[夏] Thermidor テルミドール(熱月)
[夏] Fructidor フリュクティドール(果実月)
[秋] Vendémiaire ヴァンデミエール(葡萄月)
[秋] Brumaire ブリュメール(霧月)
[秋] Frimaire フリメール(霜月)
[冬] Nivôse ニヴォーズ(雪月)
[冬] Pluviôse プリュヴィオーズ(雨月)
[冬] Ventôse ヴァントーズ(風月)
やがて、革命政府の中にも内紛が相次ぎ、ダントンの処刑、ジャコバン派ロベスピエールの恐怖政治とテルミドールのクーデターによる処刑のあと、総裁政府が樹立された。しかし、1799年ブリュメール18日、ナポレオン・ボナパルトの総裁政府の打倒によって革命は終焉を迎えた。
さて、『獅子座の流星群』は、『花の復活祭』から23年後の1797年の秋、 場所はスイスのソリエル。かつての革命の闘士、もとジャコバン党(革命左派)員で弁護士のルニョーと、支配階級だった公爵(もと伯爵)が亡命先のソリエルで再会する。ルニョーの娘マノンは、実は士爵ド・ツリーと園丁ユシェットとの子で、ユシェットと結婚したルニョーが育てながらも、王家クルトネの血が混じっている。公爵の息子の伯爵は、昔ジャン・ジャック・ルソーの手を引いていた幼い子爵ルネである。伯爵とマノンは、たちまちにして惹かれ合う。
亡きユシェットとルニョーの間には、病弱な息子ジャン・ジャックがいる。ルソーの名をもらったこの少年は聡明で、老いた父と公爵が今も持ち合っている確執を、春の水のように溶かしてしまう。両者を和解させてこと切れる少年ジャン・ジャックの姿に、平和主義者ロランの崇高な魂をみるような思いがする。
この時、舞台の円屋根いっぱいに、流星が束になって拡がり、点火され氾濫する。天空に星が流れる。獅子座の流星群である。
マノン 火の雨が降る!
公 爵 獅子座の流星群だ!……11月という天の花火師が、手にいっぱい金の殻粒(つぶ)をつかんで夜の中に投げる。……そうだ。あれは一星座の破片だ。破壊された一世界――獅子座の勇ましい塵だ。
ルニョー 亡命を。
公 爵 いや、征服を。古いフランスと新しいフランスとは互いに支持し合って世界中に種を撒きに行く。
ロランには『ピエールとリュース』という忘れがたい小説がある。第一次世界大戦下のパリ。ドイツ軍の空爆を受けているさなかに、二人の男女が地下鉄の駅で出会う。これを第二次大戦に置き換えて映画化したのが、1950年の今井正監督の『また逢う日まで』。出征前夜の岡田英次を新橋駅で待つ画学生久我美子の初々しさ。そこへ空襲警報のサイレンが聴こえてくる…。1992年の毎日新聞連載の「戦後映画史・外伝」によると、折しも東宝労働争議の真只中。この映画の製作関係者全員が、レッドパージで解雇されたという。